アイヌ語入門2 

2−2 さまざまな口頭文芸 < 神 謡 >
神謡とは−物語の例
「火の神」
 これは千歳市の白沢(しらさわ) ナベさんが語った神謡の一つです。
物語のあらすじは次のようなものです。


 私は昼も夜も針仕事にいそしんでおりました。 家の中にはたくさんの着物が掛り、 夫は宝物の刀の鞘(さや)づくりに余念がありません。 ある日、 夫は外へ出かけたようでしたが針仕事に夢中になっ ていた私は見もしませんでした。 しばらくすると窓の外にシジュウカラがやってきて、 窓を何回もつつき、 その音が言葉となって聞こえてきました。 「あなたの夫は水の女神のところに行ってしまってますよ!」と。
 そこで私は、祖母伝来の袋から、 千里の道を走る下駄と手甲(てっこう)を取り出し、 それを付けて川を上って行きました。 水の女神のところに着いた私は小鳥に姿を変えて窓のところでさえずると、 声に気づいた二人は夫婦のように振り向きます。 私は怒って、雲のカムイに頼んで、 そのカで女神の家のもの全てを外に運び出してもらい、 女神の着ているものも全て取り除いてもらいました。 しかし二人はそれに気づきもしないで笑っているので、 夫の着物も全て取り除いてもらいました。 すると水の女神もはじめて気がつき、 音をたてて天に昇ってしまいました。
 それから私は夫と一緒に我が家に帰り、 いつものように私は針仕事、 夫は彫り物の毎日を送ったのです―――――
と、火のカムイが物語りました。

(片山龍峯編『カムイユカ 』片山言語文化研究所1995年所収)

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 この物語の最初の部分を紹介します。
 火の神が針仕事にいそしみながら暮らしている様子を述べているところです。

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片山龍峯編『カムイユカラ』

片山龍峯編『カムイユカ
白沢ナベさん、 中本ムツ子さんが語った神謡6編について、 カタカナとローマ字のアイヌ語原文だけ記した絵本、 日本語訳のほか言葉の意昧などを詳しく説明した解説書、 音声資料(CD)の3点がセットになっています。

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